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ナルチスとゴルトムント コーヒーブレイク

ジュゼッペ・ヴェルディのアイーダ、椿姫などは
(お好きな方は御存じと思います。)
バルコニー席でワインとおつまみを頂きながら、
同席の人と雑談しつつ楽しむオペラ、と思っております。

1作ごとに多大な収入があったヴェルディのオペラは
23,4世紀には今日のようには上演されないでしょう。
(御免なさい、ファンの方、というより
 御免なさい、イタリアの方達)
イタリアではヴェルディは偉大です。

彼のオペラのいくつかは23,4世紀にも残ると思います。
「アイーダ」でしたら「凱旋行進曲」、晩年の「オテロ」、
「ファルスタッフ」、そして初期の「ナブッコ・ドンソール、」
の中の特に「Va pensiero sulle ali dorate」
行け我が思い、と訳されていると思います。
この国の第二国歌になっております。
初めてこの歌詞の意味が分かった時に震えました。
詩と音楽がこれ程一致している曲はヴェルディの中で珍しいです。
神懸っているというと大袈裟ですが
彼岸からやって来た音楽です。

バッハ、モーツァルト、耳が聞こえなくなってからのベートーヴェン、
彼等の音楽は神の創作として聴いた方が理解し易いです。

「ナルチスとゴルトムント」を10年ぶりで再読していまして、
あぁ、この小説すごいなと今更ながら思いますのは
作品がヘッセのペンから放れて独りでに歩いている、
ヘッセはタイプライターで書いた人ですが。
作品がヘッセを連れて諸事諸方を駆け巡っている。
あるいは涅槃から語りかけた小説でしょう。

司馬遼太郎の「菜の花の沖」「竜馬が行く」「翔ぶが如く」の
最後の部分にも同じことを感じます。
時間のある時に未読の方はお読みになってみて下さい。
私も読みたい本がまだまだ沢山あります。

「ナルチス・・・」は後何回懸るのか分かりません、
決めておりませんが、こちらも
小説を未読の方はご一読なさってみて下さい。
私は高橋健二さんしか知りませんが、どの翻訳家も
それぞれよろしいと思います。名作になる程、文章が煮詰まって
簡素になりますので、原文でも読み易いかと思います。



ナルチスとゴルトムント その5

ナルチスとゴルトムントの奇妙な友情が始まりました。
友情の春に、友情が始まった頃に不可解な障害と
予期しなかった不思議な寒さとがありました。
その友情は周囲の人達が見ても好ましくなく、
2人の間でも快適なものではありませんでした。
2人はあまりにも違い過ぎておりました。

ムント君が文法、論理学、神学の困難な箇所を
ナルチス君に訊きますと、彼はその質問に
満足せず同意しないばかりか、時々ムント君を
冷笑するのでありました。
ムント君はナルチスがちょっとお利巧で勿体ぶった人ではない、
単に教師というだけではなく深い学識者であることを
感じ、知っていたので、途方に暮れ悲しくなるのでありました。
辛辣で仮借ないナルチス、
友達を悲しませて悪い奴だ(笑)

実際、ナルチスは教育者なのではありませんでした。
ギリシャ語と論理学にその若い魂が燃えているのでありました。
彼に取って愛も又論理のうち、精神のうち、というか
理性のうちなのでありました。

彼は咲き誇る花のようなゴルトムントの美しさに
盲目ではありませんでした。
金髪の少年を愛し過ぎ、危険を感じていました。
危険というのは自分の気持ちに対してでしょう。

輝くような金髪ときれいな目に見とれることを、
官能(欲望)を、
彼への愛を自制し禁じていました。

と言葉でナルチスの思いを書くと、大分
ゴルトムントに色香のある気持ちを寄せていたんですな、
見習い僧のナルチス。


醜さと哀しさと

メルマガ配信で中川翔子さんのブログが
紹介されていまして、今朝拝見致しました。
「いじめ」に対するものです。
中川翔子様は明確にお書きになるので気持ちがいいです。

いじめは卑劣なのではなく、いじめは犯罪です。
と、長い間思って参りました。何故この大問題に
警察が最後まで介入しないのかと、発表する場もなく
そう思って参りました。
もう、30年、あるいはそれ以上続いています。
日本人は頭が良いはずなのにどうして阻止出来ないのかと
不思議でした。

残念ながらいじめはどの国にも、どんな世界でもあります。
しかし中学生が死に追いやられるというのは、
重大問題です。
今朝のWeb新聞で、やっと文科省にいじめ対応チームを
設置するとあって、やっとかと、でも少しほっとしました。

中川翔子様のブログに便乗するようではありますが、
一言、言わせて下さい。
私が受け持ちの生徒を死なせてしまった担任教師であったなら
その学校の校長先生であったなら即辞職します。
退職金も辞退します。
私の作法です。他の方の作法は知りません。

元高校教師とお話したことがありました。
「いじめは教師には分かり難い」と仰っていました。
アホかと口にしませんでしたが思いました。
生徒に無関心な先生だったから、いとも簡単に聖職から
離れられたのでしょう。

哀しく醜い犯罪の、犯罪者の犠牲になりませんように。
明日と明後日、1年後、10年後を考えて生きて下さい。
命を輝かせて下さい。

ナルチスとゴルトムント その4 

前回おばさんは間違えました。
ナルチスは黒目がちの瞳でなしに、黒っぽい色の瞳、眼
なのでありました。ですから髪も黒っぽいのでしょう。

ムント君の好きな人は2人、ダニエル院長と
助教師のナルチスです。ムント君の憧れはナルチスでした。
ナルチスのようになりたい、ナルチスを振り向かせたい、と
必死で学問に精を出したのですが勉強し過ぎで頭痛が
するのでした。ここはヘッセ自身と「車輪の下」の
ハンスに似ていますね。
悲しくなると馬小屋へ行って愛馬ブレスの首に
頭を押し付けるのでありました。

ナルチスは類稀な金の鳥が飛び込んで来たことを
察していたのですが性格上、気配に出さず、距離を
置いていたのでした。
冷たいナルチス、孤高のナルチス、高慢なナルチス。

ムント君は、でも仲間とよく遊んだりもしました。
競走、強盗ごっこ、ボール遊び、雪合戦など。

1年が過ぎた頃、悪友に誘われたムント君。
みんなが寝静まってから「村へ行こう」
悪友ではないけれど若い子がよくやりたがるでしょう。
ムント君、断れずにちょっと英雄気取りの仲間と一緒に
お出かけになりました。
勿論、修道院の戒律に反します。
村の娘(とある家のお手伝いさん)がお目当てで、
台所から入り込み、娘を囲んでお話する、
ただそれだけなんですけどね。
ムント君は美しいからモテちゃって、「又おいで、ムント君」と
唇に口づけされちゃって、かなりなインパクトだったせいか
よろめくように逃げて行き、翌朝になっても衝撃が続き、
ナルチス君の授業にも身が入らないどころか、病気のような
ショック状態。

冷たいナルチスはさすがに心配になって図書館に彼を呼び、
「どうしたの?」
答を待ちますが、ムント君は答えようとしても言葉にならずに
天使の彫刻が彫ってある書見台に頭をつけて泣き出してしまいました。
途方に暮れるナルチス君、泣き止むのを待っていましたが、
とうとう「Nun ja,今は泣きたまえ、アミーチェ、
それが1番いいのだから。」
アミーチェ(友よ)なんて訳文で書いてありましたがね、
ヘッセはここでラテン語のamicusの呼びかけ形amiceを
使っております。何故ここで気取ってアミーチェとするのかと
思っておりましたがamicus(友)はFreund(友)よりも
恋人の意味合いが強いのでした。

「立てるかい?さあ、病室へ行こう」と案内します。

快適なベットでスープと病人用の葡萄酒を召したムント君、
昨夜の出来事を又考えます。暗い夜、黒い水車の小川の上の
すべる道。柵を越えて窓から忍び込んだ台所、
少女の手の手触りと口づけ。
しかし今はそれよりもムント君に取って一層衝撃的なのは
ナルチスのこと。

ナルチスが僕の為に世話してくれた!
僕を愛している!
あの高貴で聡明なナルチスが。
あの人の何でも知っている目の前で恥ずかしげもなく
泣いてしまった!でも泣いたことはムント君の気持ちを
解放しました。
別の修道士さんがまだ穀物スープ、白パン、赤ワインを
持って来てくれました。眠りに落ちるムント君。

その少し後でドアが開きナルチスが入って来ます。
頬に赤みが指しよく眠っているゴルトムントを
ナルチスは愛と好奇心と少しの羨望を持って
しばらくじっと見つめていました。
「この子が、」って、君と年がそんなに違わないでしょう。
「この子が僕を必要とする時に少しでも助けたい。
助けて上げられた、僕が必要とする時には、その時が来たら
この子は僕を助けてくれるだろう。」
ナルチスはそっと病室を出ました。




ナルチスとゴルトムント その3

ムント君の父さんは(領主に仕える地位の高い家臣なのでしょう)
母さんはある舞踊手(踊り子)でムント君を産んだ後に
どこかへ姿をくらましてしまいました。
父さんは逃げてしまった母さんの罪の償いを息子にさせようと
僧にするべく彼を修道院に連れて来ました。

穀物庫と水車小屋の間の道を通って帰って行く父さんの、
その姿が見えなくなるまで見送っていた
彼のブロンドの長い睫から涙がこぼれ落ちます。
といえばナルチスも長い睫をしていて、眼を半ば閉じると
黒目がちの瞳が睫に隠れてしまうのでした。
「ナルチス、私について語ってごらん。」ダニエル院長、
「それはご命令ですか?院長様」
ナルチスは瞼を上げて院長の目を見つめた。

泣いていたムント君は門衛さんから
「坊っちゃん、悲しむこたないよ、始めは家族を思い出すけど
ここでは楽しいことが結構あるんだから」と景気ずけられ
気を取り直し、馬小屋へ行って彼の馬、ブレスの首を抱き
語りかけます、「僕の可愛い、可愛いブレス!」

授業が既に始まっている教室に案内されると、
12人程の少年達に、彼といくつも年の違わない
びっくりする程若い教師が教えておりました。
「僕、ゴルトムントです。」
教師はにこりともせずに会釈して後方の席を指し示して、
すぐに又授業を続けます。
騎士風の所作をした、学者さんのような、王子様のような
若い教師。涼やかに、辺りをはらうような威厳のある彼の声。
授業内容はさっぱり解りませんでしたが、
その声に聞き惚れながら、旅の疲れもあって
ムント君は眠ってしまいました。
ゴルトムントとナルチスの出会いは、
ムント君の居眠りから始まります。


ナルチスとゴルトムント その2

マリアブロン修道院の入り口の、2本の円柱に支えられた
半円形アーチ、そのすぐ脇に1本の栗の木があった。
昔、南国からローマ巡礼者が持って来た木だ、
という書き出しで始まります。
時は中世、舞台はマリアブロン(聖母の泉)修道院です。
そこに際立つ2人の人物がおりました。
年老いたダニエル修道院長と見習い僧のナルチスです。
ダニエル老院長はあふれる善良さ、天真爛漫さ、謙虚さから
全ての人に愛され、誰一人敵対する人がいませんでした。

引き締まった口もとの、若く美しいナルチスは
ギリシャ語とラテン語に秀でた天才少年でありました。
その有能さと知性を買われ若くはありましたが
助教師を務めておりました。高貴で、
些か高慢でありましたが、自制しており
宮廷風な作法を身に付けておりました。
その辺りに反感を覚える人達もいたのですが、
彼の美しさと知性は多くの人達から愛されておりました。
verlieben という言葉を使っていますがね、
イタリア語だとinnamorarsi,
訳すのに困る所でしょうね。多くの人達から
惚れ込まれていた、熱愛されていた、ということになります。
恋されていた、が当たってますが日本語で
ちょっとおかしなニュアンスになりますでしょう。

他の教師と論争になることもあるナルチスは
ダニエル院長の取り成しで丸く治まったり致します。
そんなこんなの生活の修道院に、ある日父さんに連れられて
ゴルトムントがやって来ました。
ゴルトムントという名は些か長いのでムントとさせて頂きます。
おばさん、13,4歳の時には金髪のムント君は
ウィーン少年合唱団の様なのだと想像していましたが、
中世ですものね、もう少し長めの髪形でしょう。
馬を栗の木に繋ぎながら、
「こんなに美しい木を今までに見たことがない!」

最近、又読んでみますと何故か昔好きだったナルチスよりも
ムント君を可愛いなぁ、なんて思います。

続きは次回に。早くお会い出来ますように。




プロフィール

ミルティリおばさん

Author:ミルティリおばさん
住まいはイタリア、ペルージャです。
翻訳 フリーランサーです。

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