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ナルチスとゴルトムント リディア 3

毎日、彼等は秘密の時間を見つけました。
ゴルトムントは全てリディアのなすがままに任せました。
少女の愛は名伏し難く幸せに、感動させました。
ある時は何も語らず1時間程彼の眼を見つめたきり。
ある時は飽く事を知らずにキスに身を任せ、
しかし触れさせることは決してしなかった。
1度、ゴルトムントを喜ばせたい一心で、真っ赤になって
衣服から片方の乳房を取り出しました。
ゴルトムントは跪き、恭しく乳房に口づけしました。
髪の生え際まで赤くなりながら彼女は丁寧に衣服の中に
しまいこみました。
この場面はエロティックではなしに愛が精神化されていて
きれいですよね。子供心に魅かれるものがありました。
今、こういう愛のシーンを探すのは困難です。
私が知らないだけかしら。

今まで女性達から望まれただけだった、
でも今は愛されていると自覚するムント君でした。

2人であだ名を付け合って呼んだりします。
彼女は幼い頃のことをよくムント君にお話しました。
ある日、彼女の言うことに、
「あなたはとても美しくて穏やかだけれど、あなたの眼には
悲しみだけがある。幸せが存在しないかのように。
美しくて愛するものは長く私のもとには留まらない。
あなたの瞳が悲しいのは故郷を持たないからではないかしら、
あなたは森からやって来て又森に帰る・・・
私の故郷はどこかしら?家があって父も妹もいるけれど
本当の故郷を知らないの。」
ムント君は彼女が話すに任せ、笑いながら、困惑しながら
聞いていました。

「普通の人生を送らないあなたにこれから何が起きるのか
知りたいの。夢幻と表現を持っているあなたのような人は
詩人にならなければならないわ。あなたは世界を巡って
全ての女性に愛されるでしょう。でも、あなたはいつも
一人ぼっちだわ、あなたがよくお話している修道院のお友達の
所にお戻りなさい。あなたが1人で森の中で死ぬのはいやだわ。」

ぼんやり遠くを見るような眼で、真面目に話し、
でもムント君と一緒に笑い、
秋の深まった田園で2人は馬を駆るのでした。
おどけた謎かけをして、枯葉や輝く樫の実を彼に浴びせかけたり
するのでした。

ある晩にベッドの中で甘く苦しい愛と悲しみが心にあふれて、
動悸が強く胸を打ちました。木枯らしが屋根を揺すっています。
毎晩唱えている聖母賛歌を今晩も唱えてみるのでした。
さすが元修道院生のムント君。

Tota pulchra es Maria,
et machla originalis non est in te
Tu laetitia Israel,
Tu advocata peccatorum!

これ、カトリックの方には耳慣れたラテン語の聖母讃歌の祈りで
合唱曲としても作曲されていますがな。
私も教会の合唱団で前、歌ってました。クリスチャンでもないのに。
音楽会の後のおやつや夕食が楽しみで歌っていたわけではないんですよ。

  清らかなマリアよ、
  罪の穢れなし
  汝、イスラエルの喜びよ
  汝、罪びとの護り手よ!

穏やかな音楽と共にマリア讃歌が心に入り込みました。
外では11月の風が森を吹き抜け
安らぎのない放浪者の歌を歌っています。


ナルチスとゴルトムント リディア 2

ご訪問、有難うございます。
東方異人さんは帰国を控えていて
お忙しいのかもしれませんね。お元気ですか?

女性が出たついでに小説の中のヒロイン、のお話を
したいのですが、私が女性のせいか女性に心が奮い立って
読んだという小説がないんですよ。
それでも好きな登場人物を挙げさせて頂くと、
ジェイン・エア(シャーロット・ブロンテ1816~1855、
イギリスの女流作家の作品)
主人公のジェインが子供時代に施設で出会う女の子、
ヘレン・バーンズ。
若草物語(ルイーザ・メイ・オルコット1832~1888、
アメリカの女流作家の作品)
4人姉妹のお母様。この2人が印象に残った、気持ちの和む人達です。
子供の頃、べスが好きでした。

では、リディアちゃん、行ってみましょう。
馬から降りて泣いてしまったリディア、泣き止むと、
「あなたは悪い人だわ」、とムント君に。
「僕は悪い人?」
「誘惑者だわよ、私の目の前であの女の人に恐ろしく
恥ずかしいことしたじゃないの、慎みを知らないの?」
「僕、慎みを知ってるよ、でも愛に恥ずかしさは無用なんだ」
そっとリディアの美しいお膝にお顔を載せるムント君。
リディアは嫌がらなかった。
彼はリディアの美しい指にそっと口づけしました。
「もう行かないと!」 2人は馬で館に戻ります。
馬からの降り際に「あの女の人と夕べずっと一緒だったの?」
首を振るムント君。

午後にゴルトムントの仕事部屋(書斎)へ行き、なおも
「本当に彼女と何の関係もなかったの?」
彼女はムント君に大分ご執心のようです。
「私を本当に好き?ゴルトムント、」
「あなたは彼女のような女の人に慣れているんでしょう。」
「君はずっときれいだ」
「そういう質問ではないのよ。」
「君はどんなに君が美しいか知ってる?」
「鏡を持ってるわ。」
「額と肩と爪と膝を見たことないの?みんな同じように
ほっそりしていて長くて調和している。」
大いなる誘惑者よ、今、私を無駄に口説いてるわ。」
って、わざわざ彼の仕事部屋まで出向いておいて。

「君の花婿は君がキスも出来ないと笑うよ。」
「あぁ、私にキスを教えたいのね。」
ゴルトムントからキスの受け方と与え方を教わったリディアちゃん、
疲れてがっくりとゴルトムントの肩にお顔を載せました。

ゴルトムントは小麦色の肌のリーゼに教わった、何も知らない
生徒だった頃を思い出しました。
アサギリソウが何ていい匂いだったっけ、すぐにしおれてしまった。

リディアはお顔を上げた時に恋する面差し、瞳に変わっていました。
「行かせてね、ゴルトムント、愛しい人」

ナルチスとゴルトムント リディア

富裕な騎士は広い農園も持っていました。
農園、馬係のヒンリッヒ、年取った食料、料理係のレア、
などがいて、ムント君は乗馬したり、狩猟のお供をする
ワンちゃんとも友情を結びました。
弩(いしゆみ)の仕方も覚えました。
弩: die Armbrust
   la balestra(伊)私は見たことがないです。
弓を横にしたような形だそうです。
中世に狩りや戦で使ったのだとか。
中国では前5世紀から既に戦で使用していたそうです。

その秋は葉が落ちるのが遅く、いつまでもシオンと
薔薇が咲いていました。(シオンというのはキク科だそうで
私は見たことがないのです)

ある日、城にお客さんが訪れました。騎士とその妻、それに
馬丁の3人。小旅行からの帰りが遅くなってしまったので
宿泊を願ったのでした。異国の訪問者は歓迎され
鶏、魚など振舞われます。陽気な騒ぎが嬉しいムント君、
彼も参加して、みんなで豪華な夕食です。

騎士の奥さんはムント君を見ると、すぐに熱い視線を送り
始め、食事中にムント君に足を絡ませて来ます。
すぐに答えるサービス精神旺盛なムント君。
修道院のエピソードなど何気に語りながら、ナイフをわざと
落とし、拾う振りをして床に屈みテーブルの下の彼女の足を
愛撫します。それを見ていて蒼くなるリディア嬢。

奥さんはゴルトムントの話よりも彼の声に聞き惚れている、
ということをムント君は知っていました。

3人の女性は3人3様を呈します。
ユーリエは猛烈な嫌気と抵抗を。
奥さんは満足感に喜び、リディアは激しい苦悩を。
そしてリディアの目が嫉妬と内面の熱望に輝いた、
ゴルトムントはその様子の全てを見逃しませんでした。

リディアはベッドの中でもまだ考えます。
「あの2人は今頃ベッドで一緒なのだろうか」

曇り空、湿った風の吹く
あくる朝、お客さんは発って行きました。

リディアは馬を駆って散歩に出ました。
ゴルトムントが追いかけます。逃げるリディア、彼女の
金髪が矢のように輝いています。
とうとう追いつかれちゃった。泣き出すリディアに
キスの遊戯を教えるゴルトムント。
で、2人のおままごと恋愛が始まるのでした。

おばさんがこの小説の中で一番印象に残る女性の1人です、
リディア嬢。というかヘッセの描いた女性全般の中でも。

ゲルトルート(春の嵐)は小さな女の子には眩しかった。
大人になって読むと、少し理想化され過ぎていますかね。
クーンの初恋の人、歌の下手さから嫌気がさした、その人に
会って歌を聴いてみたいです。恋人が逃げ出すようでは半端な
音痴ではないでしょう。ヘルミーネ(荒野の狼)は女性では
ないでしょう。と、今日はこの辺で。
良い日をお過ごし下さい。





ナルチスとゴルトムント 騎士の城で

ゴルトムントは世界を流離い始めて1,2年が
経ちました。
僕と愛し合った女達は何故、誰1人として僕のもとに
留まらないのかなぁと不思議なムント君。
放浪する者にとって冬は厳しいです。

ある秋の始めの日に騎士の城に行き着き、冬の間の
逗留を願います。ムント君は歓迎されました。
ギリシャ語、ラテン語が出きるということを知った騎士は
重宝に思って、ずっとこの城にいることを願いました。
年を取り始めているその騎士は戦の後でローマ巡礼者と共に
ローマ、コスタンティノーポリまでも出向いた巡礼記、
旅行記を書き上げたくて、上等な紙や羊皮紙と共に
書き記したものを溜め込んでありました。
「実は私は学問、文筆家に憧れて情熱を持ってたんだ。」
ラテン語が良く出来ない騎士はムント君に修正を頼みました。
3年間の勉学実績があるムント君、騎士に大いに褒められながら
仕事を進めます。修正と共に優美な文体に書き直す術も
知っていました。
騎士は黒の学者(教師)の服をムント君に着せたかったのですが
ムント君は茶色の上等な布を箪笥から見つけて、
「僕はこっちがいい!」
半ば小姓、半ば狩猟家の優美な装いが帽子と共に彼に
よく似合いました。

騎士には2人の娘がいました、18歳と16歳、
リディアとユーリエです。
ムント君は内心喜んでいました。
が、ユーリエは口をきいてくれません。リディアはいつも
貴婦人のように振る舞い、ゴルトムントを知識豊かな
珍しい生き物のように見なして接しました。彼女は
奇妙な質問を沢山して、女子修道院生活の中に情報を
取り入れるのでした。
ムント君はいつもリディアとは貴婦人とのように、
ユーリエとは尼僧との様に接したのでした。

ナルチスとゴルトムント 農婦を待っていて

拍手をどうも有難うございます 

前回と後先になります。
農婦の方との約束の場所を探して歩き、彼女を待つ
ムント君の心がメランコリー気味です。悲しみに満たされ
姦淫、愛欲以外の罪を感じています。ナルチスは穢れなくて
聡明なのに贖罪をしている、僕は若くて健康なのに、
すっかり幸福ではない、何故だろう?

キリスト教で原罪というものを感じているのですか?
悲しむムント君にこんな言葉を言って差し上げたいです。

罪業もとよりかたちなし、妄想顛倒のなせるなり、
心性もとよりきよけれど、この世はまことの人ぞなき。
超世の悲願ききしより われらは生死の凡夫かわ、
有漏の穢身はかわらねど 心は浄土に遊ぶなり。
大願海のうちには 煩悩の波こそなかりけれ、
弘誓のふねにのりぬれば 大悲の風にまかせたり。
         悲嘆述懐和讃  親鸞聖人

ムント君が悲しいと、おばさんまで悲しくなります。
元気出せ、ムント君!

でも生きることは美しい、と感嘆するムント君。
ここはヘッセのため息でしょうか。
スミレを手に取り見惚れます。優美な茎の周りに整然と
並んでいる葉、彼はヴェルギリウスの詩句を愛していました。
 ヴェルギリウス: 古代ローマの詩人。
 プブリウス・ヴェルギリウス・マロ
 Publio Virgilio Marone
 ラテン文学の重鎮、「エネアス」の著者。

彼の詩句はこの葉の半分も明快で精巧で賢くはないと
ムント君は思ったりするのでした。もしも人間がこの葉と
同じものを創り出せるなら何て楽しく幸福だろう!

そんなこんなを考えているうちに農婦さんが、パンと
豚の脂身を包んで持って来ました。
その人が首も折れよとばかりにゴルトムントを抱きしめる
奥さんです。

ナルチスとゴルトムント 追記その2

今日は秋分の日ですね。
Giorno dell’equinozione
di autunno.
昨日からイタリアは秋となりました。涼しくて良い天気が多い、
過ごし易い気候です。
日が大分短くなりましたね。

おばさんは2つ程、間違えた所と書き足りなかった所があります。

ゴルトムントのお父さんは領主の重臣ではなく、
keiserlicher Beamter(独)
funzionario imperiale(伊)
神聖ローマ帝国の役人です。
中世には国、国家という概念はなく、勿論ドイツもフランスも
イタリアも存在しませんでしたが、小説の後の方で
ドイツという言葉が出てきます。今日的に考えてドイツの
地域なのでしょう。
地位のある固い職業の人が果たして踊り子と結婚するのかと
私は勝手に考えておりました。でも、あり得る事ですよね。
原文通りに考えないといけませんね。
ここは俸給に関わる所です。
三拝九拝十二拝です。平に平に。

ナルチスは宮廷風、騎士風の所作をしていたので
ナルチスのお父さんが領主の重臣、あるいは領主、あるいは
騎士だったのでしょう。

それから「ナルチスとゴルトムント」その2で、書き足りなかった
かなと思いますのは、

異国の木(栗の木)の下で石版を抱えた、幾世代もの修道院学徒達が
行き交い、お喋りし、言い争い、笑い、通り過ぎて行った。
2,3年毎にいつも新しい顔ぶれになった。
沢山の学徒達が修道院に残り、見習い僧となり修道士となって、
髪を短く切り、僧衣と紐帯を身に付け・・・
他の学徒達はそれぞれの家、城に戻り家督を継ぎ、あるいは
職人、商人になる者もいた。

髪を短く切り、とヘッセは書いていますが、イタリアの訳者の方は
tonsuraを受けた、と書いています。
トンスラという言葉で知られていますでしょうか。
聖フランチェスコなどの髪を見ますと、頂点だけ丸く剃って
周囲の髪は残してありますね。あのような髪型です。
ウンベルト・エーコの薔薇の名前
(Il nome della rosa)でマエストロ役の
ショーン・コネリーがあの髪型で、しかし彼は前髪から頂点にかけて
全部剃っていた、なかなか似合いましたね。

お詫びと書き足しでした。

ナルチスとゴルトムント 追記

修道院の中庭にあるシナの木、科野木、
私はブログ中、シナの木と書いたり菩提樹と
書いたり致しました。
ヘッセはLindenbaum、イタリアの翻訳家は
tiglioと書いています。
ドイツでder Lindenbaum,  die Lindenbäume(複)
イタリアでil tiglio,  i tigli(複)
両方同じなのですが、
正確に言うと菩提樹はシナノキ科の木で、シナの木と
言われるものと菩提樹と言われるものは別です。

私の近所には1Km程続くシナの木と少しの菩提樹が
道路の両側に並んでいます。5、6月には小さな
クリーム色の花を付け、とても良い匂いがします。
落葉樹ですので11月、12月にはすっかり葉を
落としてしまいます。シナの木は葉が大きく背が高く
12、3m位、菩提樹は8~10m位です。
イタリア人は2つを纏めてtiglioと呼んでいます。
ドイツ人は恐らく纏めてLindenbaumと
呼んでいるのではないですか?
ドイツにいらっしゃる方はご存じと思います。

お釈迦様がその下で悟りを開いた、と言われるのは
別の菩提樹です。

それからやはりブログ中、ナルチスが「僕の髪に触らないで」
その後「叙階を受けなければならない」という場面がありますが
間違えたというか、おばさんは説明が書き足りなかったです。
叙階という言葉が何度か出て来ました。
叙階 die Weihe,  l'ordine(イタリア語)は
聖職授与式です。叙階としか訳せません。
カトリックには位階制度がありまして(源氏物語の中のというか、
奈良、平安時代の三位、正四位、従五位、正6位のようなものですね)

ヒエラルキーの頂点にいますのはローマ法王(教皇)です。
日本のカトリックの方達からパパ様と呼ばれていますでしょう。
2005年からべネデット16世、ドイツの
ヨーゼフ・ラツィンガーが教皇です。私は聴いたことがないけれど
ピアノが大変お上手とか。
以下、司教、枢機卿などの司祭、助祭、侍祭など七段階あります。
中世からずっと変わっていないそうです。
叙階を受ける前には神に心身を捧げる一定の儀式的期間を
経なければなりません。

ナルチスは見習い僧から修道士への叙階を受ける前の
修練期間だったのでしょう。断食、徹夜、瞑想と。

ナルチスとゴルトムント 森を抜けて

明日は、ここでは明日ですが日本ではもう、その
明日、18日ですね。
何事も起こりませんように、穏やかな1日でありますように
祈るばかりです。そしてずっと穏やかな日が続きますように。
国の名は敢えて申しませんが、マスコミに舞を舞わされるのは
ここでも同じでして、ある経済大国の70年前の戦争首謀者の
名を挙げて、今でも国民の皆さんにお伝えしております。
その国に関しての報道すべき重要な事が他にありますのにね。
私個人の感想、これは嫉妬でしょう。
感心しますのは、しかし事実真実を弁える知識人が、多くは
ないけれどこの国に力強く存在していることです。
ここで仕事をしている大国の企業を襲うなどということは
決して起きないでしょう。そもそも企業を襲って失業者を
増やすのはこの国の損失ですものね。

さて、ムント君、朝になって気がつきました。
森林は終わりに近づいている、喜んで太陽に合わせて
歩きました。木々は太く、白い樅があり年月を重ねて
まっすぐに立っていました。これらの木々は修道院の円柱を
思わせました。礼拝堂に通じる黒い扉にナルチスは
消えて行った・・・どれだけ経ったのだろう、
たった2日間?木が少なく低くなり2日後に人里に近づいて
喜びました。畑の傍に十字架があったので跪いて祈りました。

おばあちゃんと孫のいる農家でパンをご馳走になりました。
昼には野良仕事に出ている農夫とその妻が帰宅し、みんなで
昼食となります。ゴルトムントの貴族風な美しさが農婦の気に
入り早速ムント君を誘います。

誘いに乗ったムント君、姦淫と知りつつ約束の場所へ出向き
農婦に抱かれた、というのが似合ってますね。
書き切れませんが一つ一つの場面が面白いです。
ここで又おばさんは繰り返さなければならない。本をお読みに
なってみて下さい。端折るのが辛いです。

農婦はリーゼ程に愛の戯れを知りませんでしたが、すばらしく
強く子供じみて貪欲で、首の骨も折れよとばかりに
ムント君を抱きしめます。
ムント君は幸福でした。幸福と悲しみで満たされていました。

ムント君はモテましたよ。行く先々で女が寄って来て彼を
可愛がりました。可愛がったというのは、みんな夫のいる
女性、年上だったのでしょう。
いい男は年上の女性にもてると昔聞きましたが、今になると
それが分かります。様々な経験を積んだ女性は男性を見る目も
あるでしょう。

愛の遊戯に関して天才的なムント君、女から教わる愛の授業に
疲れを知りません。子供のように誘惑に開放的であり、
彼自身も誘惑者なのでした。彼の美しさだけでは充分に
女性を魅了出来なかったでしょう。女性達は彼の幼児のような
無邪気さ、罪のない熱望に惹かれるのでした。
女性が望まない時には、誘われない時には決して手を
出しませんでした。この辺ご立派、ムント君。

もしもあなたと出逢ったとしても私は誘いませんよ。
あなたに見惚れるとは思うけどね。
見ていて楽しい男性でしょうね、ゴルトムント、
丁度、光源氏の君のように。







ナルチスとゴルトムント 森の中2 

ゴルトムントは歩きながら沢山の動物達に
出会いました。茂みから突然顔を出し、ムント君を
見つめ、耳を寝かせて逃げ出した野兎、
小さな草地では長い蛇に出会いました。蛇は
逃げなかった。抜け殻でした。彼はそれを手にして
観察しました。灰色と茶色のきれいな模様が背中に
ありました。陽の光が木々の枝からクモの巣のように
射し込んで来ます。
黒くてくちばしの黄色いクロウタドリ、黒いまん丸な目で
ムント君を見て恐がり地面をかすめて逃げて行きます。
沢山の駒鳥、アトリも舞っています。

  閑話休題
クロウタドリは私の近所にもいまして、ちょっと大きめな
鳥です。人を見ると緩慢に逃げて行きます。
飛びますが、歩く時が多く特徴のある歩き方です。
背中を丸めてヒョコヒョコと私を見て逃げて行きます。
私は何もしないのに。
胸がオレンジ色の駒鳥は秋、冬にやって来るので
猫の届かない所にビスケットを砕いて置いておきますと
駒鳥(人懐こいですね)、雀、四十雀、ホオジロ、鶯さん達が
召し上がりにやって来ます。

燕は3月の終わり頃いらして、4,5,6、7月の始めまで
わんさかと空を飛び交います。8月にはぐっと減り9月には
殆どいません。8,9月の燕さんは遅く出きた子達
なのでしょう。飛ぶ練習をしているようです。
「又来年会おうね、みんなが元気で南国へ行き着くのよ。」
と呼びかけている私。

ムント君の森の中の行進は続きます。水溜りの中で顔だけ
出している足の長い蛙、わけの分からない遊びをしたがって
います。その上に幾匹かの青い蜻蛉(トンボ)が羽を震わせて
います。
夜に枝をへし折りながら茂みの中を探し廻る大きな動物を
知覚しました。姿は見えません。長い間動けずに、自分の
動悸だけを聞いていました。大鹿か野豚でしょうか。
その後静けさが戻り、苔でベッドを作りました。
果物を食べ、ベッドを作り、さらに小屋を建て火を起こし、
しかし、ここで動物達と永遠に暮らすのは我慢できない
悲しさでした。これが運命なら動物になったが良かった!
雄熊となって雌熊を愛するのは悪くない。

寝る前に夜の神秘的な森林の千もの音を聴きました。
狐、山羊、樅、松、もはや彼等の家族で、彼等と共に生き
なければならない。ムント君は動物と人間の夢を見、
雄熊になって雌熊のリーゼをキスと愛撫で貪った。

夜中に堪らなく苦しくなって目が覚めました。
そうだ、祈りを忘れていた。起きて寝床に跪き、
2度祈りを唱えました。そしてすぐに眠りに就きました。

ナルチスとゴルトムント 森の中

ゴルトムントは夢現でリーゼが髪を結っているのを
見ました。「もう起きたの?」彼女は驚いて
振り向きました。「起こしたくなかった」
「君と一緒に行きたい。」
「それは駄目よ、私には夫がいて夜中ずっと
帰らなかったのよ、夫は私を叩くわ。」
ゴルトムントはナルチスの言葉を思い出しました。
-その女との道のりは短いよ。
リーゼの手を掴んで、
「僕が眠っている間にさようならも言わずに
行ってしまうの?」
夫に叩かれるのは仕方ないけど、あんたに叩かれるのは
いやだったの。」
「僕は君をはたきはしない、今日もそして決して。」
リーゼは手を振りほどいて「だめよ、だめ!」と
叫んで泣きながら行ってしまいました。

ゴルトムントは彼女に捨てられ呆気に取られ
ぼんやりしていました。
まだ疲れていたので太陽が高く暑くなるまで
眠りました。
小川で身体を洗い水を飲みました。
夕べのことを思い出します。
見知らぬ黒髪の女は彼を花開かせ、燃える望みを鎮め
目覚めさせたのでした。

乾いた5月の野と、こんもりした森を歩き始めました。
その歩みはもとに戻るのではなく大きな世界へと
続くのでありました。限りない青と緑、
大きな宇宙の中で兎のように、虫のように小さな彼。
起床、礼拝、授業、食事の時間毎の鐘はもう、
聞こえません。

「何てお腹が空いたろう!」
麦畑の麦の穂が9分通り実っていたので殻を剥いて
貪り食べました。熟し切らない胡桃の殻を歯で割って
食べた後、ポケットに納めました。

松林がオークの木(樫、楢)とトネリコに中断され、
森林が始まりました。ブルーベリーを見つけて
沢山食べ、体力を回復しました。
ホタルブクロが草の間に咲き黒い蝶が気まぐれに
舞っています。こんな森には聖ゲノフェーファ、
(Santa Genoveffa, Genevieve)
が住んでいるのでしょう。ゲノフェーファは
 5世紀に生きたフランスの女性の聖人、長い間、森に隠者
 となって住みました。パリと警察の守護聖人。

誰かと遇いたいムント君、でも森林は今日も明日も
まだまだ続くことを知っていました。
成り行き任せで歩くばかりです。

啄木鳥がどこかで木を打っています。
やっとその姿を見つけ長い間観察しました。
動物達と話が出来たら、啄木鳥君を呼んで、優しい言葉を
かけて木々と森の生活、彼の仕事の話を聞けるのに。
啄木鳥に変身出きるなら!
啄木鳥が木を打つ音は何と優しく生気があるのだろう!
 



プロフィール

ミルティリおばさん

Author:ミルティリおばさん
住まいはイタリア、ペルージャです。
翻訳 フリーランサーです。

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